ベーゼンドルファー

日本で唯一のベーゼンドルファー・アーティストである久元祐子さんのCDを聴きました。2020年11月紀尾井ホールでのライブで、久元さんのために制作されたベーゼンドルファーでの演奏です。プログラムは、ベートーベンの有名なソナタ二曲を中心としたものです。

ベートーヴェンの悲愴ソナタは、私の大好きな曲です。第一楽章はモ-ツァルトの影響が少し感じられる出だしなのですが、深々とした響きが部屋一杯に拡がります。あの愛らしい、優雅で端正なモーツァルトのソナタとは全く違う、ベートーヴェンの意志的な音楽がゆったりと流れていきます。第二楽章の夢見るような音楽、疾走する三楽章、こんなにひたひたと染み込んで来る演奏は久しぶりです。

でも、さらに素晴らしかったのはワルトシュタインです。ピアノという楽器がオーケストラのように鳴り響き、ベートーヴェンの巨大さ、力強さが凄く感じられます。表現の幅が抜群に広い演奏ですね。雲が晴れ、明るい世界が拡がっていく様子が目の前に現れます。壮年期のベートーヴェンの曲を聴くあの高揚感、やっぱり素晴らしい曲ですね。合間に入っている小品も素敵な演奏です。演奏者の温かみがすごく感じられます。

もう一枚、ヴァイオリニストの永峰高志さんとのデュオ演奏のCDも素晴らしかったです。使用しているヴァイオリンは、なんとブラームスのヴァイオリン協奏曲を初演したヨーゼフ・ヨアヒムが所有していたストラディヴァリウスです。シューマン、クララ・シューマン、ブラームスなどの作品が入っています。

もう最初の出だしから、柔らかで艶やかなヴァイオリンの音色に魅せられてしまいます。ピアノの豊かな響きに支えれられ、ヴァイオリンが蝶のように舞い上がっていきます。仲の良い作曲家たちの語らいが演奏から聴こえてくるようで、蓼科の夏から秋への季節の変化の中に融け込んで行くようです。有名なブラームスのヴァイオリン・ソナタ「雨の歌」はもちろん聴きごたえのある演奏ですが、クララ・シューマンの「3つのロマンス」が夢見るようで、素敵な演奏でした。

この2枚のCDは本当に素晴らしい録音ですね。奥行きと柔らかさ、強い芯が見事に捉えられています。素晴らしい演奏と録音が一体化したCDです。音楽は、演奏家とそれを伝える録音、そして聴衆のコラボレーションだと思います。

 

 

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